朱に交わらせて赤くする-環境の創り方-
“朱に交われば赤くなる”という言葉があります。
交わる仲間や友人によって感化されることのたとえで、
「人は周囲に影響されやすく、交際する相手によって善にもなれば悪にもなる」
という意味です。
語源としては、「朱」は朱色の顔料のことだそうです。
古くから漆の着色や絵具、朱肉などに用いられてきたこの朱色の顔料が
ごく微量でも、付着したものをたちまち赤く染めることから、
付き合う友人によって大きな影響を受けることのたとえになったようです。
・親切な友人のグループに所属した子供は、数年後自分も親切になる
・友人5人の平均年収が、自分の年収である
というそれぞれの説を実証した実験も、実際にあるそうです。
異論もあると思いますが、“類は友を呼ぶ”的な結果論ではなく、
“朱に交わった”という原因にフォーカスして考えてみたいと思います。
朱に交わらせて赤くしようと思えば、どうすればいいでしょうか。
朱とはロールモデルであり、組織が目指すひとつの基準ですので、
ルール化・標準化・マニュアル化が方法として考えられます。
では、そのようなルール(マニュアル)を創ってしまえばOKでしょうか。
勿論、それだけでは足りません。
そのルール(マニュアル)が実行されなければ、意味がないからです。
では、実行されるルール(マニュアル)とはどのようなものでしょうか?
ひとつは、既に誰かが実行しているルール(マニュアル)です。
フードコートでのゴミ分別に関する、ある実験です。
以下、内藤 誼人著『世界最先端の研究が教える新事実 心理学BEST100』より抜粋
カナダにあるヴィクトリア大学のルーベン・サスマンは、
あるフードコートで、注意書きの効果を調べました。
サスマンはまず、それぞれのテーブルに
「残り物、割りばし、プラスチックのフタなどはきちんと分別しましょう」
という注意書きを置いておきました。
この注意書きは目立つもので、
フードコートの利用者が気づかないということは絶対にありませんでした。
ところが、ゴミ捨て場できちんと分別してくれたのは、わずかに19%。
84名の利用者のうち、16名しか注意書きには従ってくれなかったのです。
次に、サスマンは、アシスタントをゴミ捨て場のそばに待機させ、
利用者がそちら向かって歩いてきたら、すぐに立ち上がり、
自分が先にゴミの分別をしている姿を見せてみました。
すると、このときは34%が分別しました。
87人中30人が分別してくれたことになります。
注意書きを見ても人は従いませんが、他の誰かがやっていれば、
それを完全に無視するのも気がひけるのでしょう。
誰かが行っているアクションがやがて当たり前になり、
醸成されていくと、所謂“風土”や“カルチャー”になります。
既に実行されているルールや基準には、抗いにくいものです。
そして更に重要になるのが、逆説的ですが
ルールやマニュアルに固執せず変化していくプロセスを共有することです。
無印良品(MUJI)のマニュアルに関する考え方です。
以下、松井忠三著『無印良品は、仕組が9割』より抜粋
日本では、マニュアルという言葉にネガティブなイメージがあります。
マニュアルを使うと、決められたこと以外の仕事をできなくなる、
受身の人間を生み出す、とよく指摘されています。
無味乾燥なロボットを動かすような、画一的なイメージがあるようです。
しかし、そもそもマニュアルは
社員やスタッフの行動を制限するためにつくっているのではありません。
むしろ、マニュアルをつくり上げるプロセスが重要で、
全社員・全スタッフで問題点を見つけて
改善していく姿勢を持ってもらうのが目的なのです。
完全に受身で与えられるだけのマニュアルよりも、
ブラッシュアップされていくことが前提で、
その改善・改良にに自分が関与する可能性があるマニュアルの方が
当然ながら実行力を伴います。
朱を交わらせて赤くする為には、
組織内で質の高い交流(コミュニケーション)が不可欠です。
ルールやマニュアルも、
そのコミュニケーションツールの1つとしての活用が期待されます。
その様な視点で、
今一度業務のルール化・標準化・マニュアル化をご検討下さい。
既存のルール・マニュアルも一度見直してみませんか?
朱に交わらせて赤くする、という能動的な取組が必要です。
実行され、改善が重ねられ、気が付いたら真っ赤っかなはずです。
追記)
組織的に何かしらの取組を実施するというのは、往々にして難しいモノです。
併せて下記もご参考下さい。
▼率先して実施するのは5%でよい?
▼遅刻したのは何のせい?
【環境をコントロールする-対応バイアスと善きサマリア人の実験-】