安心して下さい、FBIも言ってますよ
営業の重要な付加価値のひとつが、顧客への問題提起です。
詳しくは▼【心健やかな顧客への問題提起-営業の付加価値-】参照
「〇〇はどうでしょうか?」
という仮説の提示が必要なのですが、しばしば頂くお悩みがあります。
それは、
「間違っていたらどうしよう・・・」
「否定されたらどうしよう・・・」
という不安がある、ということです。
この気持ちはごもっともです。
誰だって否定されたくありませんし、
否定されるような仮説を提示することへのリスクも感じるでしょう。
安心して下さい。
そんな不安を払拭してくれる指摘があります。
それは、
“人間には間違いを正したいという欲求がある”
ということです。
もしも営業が顧客に提示した仮説が間違っていたとしても、
相手(顧客)は、それを正そうとすることに対して欲求がある。
つまり、マイナスの感情でそれ(間違いを正すこと)をしない、ということです。
ジャック・シェーファー/マーヴィン・カーリンズ著、
『元FBI捜査官が教える「情報を引き出す」方法』という書籍で紹介されています。
同書では、FBIが心理術を活用して、
ごく自然に機密情報を取得する為のテクニック・考え方として紹介されているのですが、
“間違いを正したい欲求”に関して、以下抜粋です。
大半の人は、程度の差こそあれ、自分に不安を覚えている。
他人と自分を比較して、
「あの人より自分は頭がわるい」
「裕福ではない」
「教養がない」
と劣等感を覚えると、いっそう不安になる。
だからつい、自分はあなたと同じくらい頭がいいんですよ、
いや、自分の方が賢いんですよと証明したくなる。
そのためには、相手の言い間違いや勘違いを訂正するのが手っ取り早い。
相手の間違いを訂正すれば、自分の方が優位に立てるからだ。
他人からいくら提案をされたところで、提案を受け入れた結果、
こちらの自尊心が傷つくことになるのなら、大半の人は首を縦に振らない。
ここまで露骨に考えている人はいないと思いますが、
時に納得できない提案・仮説に対して、軌道修正をする行為は
相手にとって決してネガティブな感情ではないのです。
営業が提案・仮説の提示を行うのは、自分の有能さを提示する為ではありません。
ここを、はき違えてはいけません。
否定されること、間違うことを恐れずに、
寧ろ顧客の参画を促し、
協働するきっかけにすらなり得ると思って取組みましょう。
トライできそうでしょうか。
・・・まだまだ不安ですか?
安心して下さい。
FBI直伝の具体的な処方箋があります。
それが、“第三者話法”と“格上げ”です。
▼第三者話法
以下、『元FBI捜査官が教える「情報を引き出す」方法』より引用
第三者話法とは、デリケートな話題に関する相手の真意や本音を探り出す時に活用できるテクニックだ。
第三者、つまり相手とは直接関係のない他人を引合に出せば、本音を引き出しやすくなるのだ。
人は他人の体験談を聞くと、無意識のうちに、そのストーリーの主人公に自分を投影する。
第三者の話に感想を述べるだけなら、相手は思わず本音を漏らすものだ。
所謂、事例の提示です。
御社は〇〇ですよね!というピンポイント仮説提示が難しい場合は、
「ある会社(第三者)で、このようなことがありまして・・・」
「どう思われますか?」
とアプローチしてみましょう。
実例であるとより良いですが、ある程度デフォルメして構いません。
あなたの仮説を組込んだストーリーを提示してみましょう。
▼格上げ
以下、『元FBI捜査官が教える「情報を引き出す」方法』より引用、加筆修正
※同書で紹介されている実話です
私自身、「格上げ」するテクニックを使えばよかったのにと、
職場に売り込みにやってきた相手に思ったことがある。
ウェスタン・イリノイ大学で教えているため、私は大手出版社の営業担当者から、
よく「最新かつ最高」のテキスト教材の売込みをされる。
あるとき、営業担当者がアポもとらずに、私のオフィスにやってきて、
「新しいテキスト教材に目を通して頂けませんか」と言った。
そして彼女は自信たっぷりに、こう言い放った。
「この教材は、いま先生が授業でお使いのものより、はるかに優れております」と。
私は胸の内で、こう思った。
「この女性はたったいま、私が学生のために選んだ教材のほうが劣っていると言ったぞ」と。
実際には、彼女が売込んでいる教材の方が優れていたのかもしれない。
それでも私は、彼女が売込んでいる教材に目を通す気にはなれなかったし、
自分の教材選びに非はなかったとしか考えられなかった。
彼女は新製品を売込みながらも、
いまお使いのその教材を選んだのは誤った判断でした、と暗に私を非難したのである。
だから、私はその非難に拒否反応を示し、
もう彼女が薦める教材に目を通す気をなくしてしまったのだ。
この営業担当者は、「格上げ」するテクニックを使い、次のように切り出せばよかった。
「失礼致します、〇〇教授。恐縮ですが、ご都合のいい時に、
弊社が刊行したばかりの新しい教材についてアドバスを頂戴できないでしょうか」と。
この場合、彼女は教科書を売りつけるのではなく、
教材に対する教員の意見を引き出し、教授の地位を「格上げ」している。
よって、この教員は
「彼女が私にアドバイスを求めるのは当然だ。私は学識のある教授なのだから」と思う。
教授が教材に目を通す確率は高くなるだろう。
こうして実際に目を通せば、いまの教材より優れているのか劣っているのかを、
教授本人が判断する機会が生まれる。
新しい教材のほうが良ければ、教授は率直にそいう言うだろう。
教授の地位を格上げした結果、教材を購入してもらえる確率がぐんと高くなるのだ。
イメージ頂けたでしょうか。
このニュアンスが重要なのですが、
ゴマすりしたりお世辞を言うべきだということではありません。
この商談(意思決定のプロセス)に参画するべき人物であると、
相手を“格上げ”することで伝えるのです。
この「アドバイスを下さい」は、なかなかのキラーフレーズだと思います。
是非シーンに併せて活用して下さい。
安心頂けましたでしょうか?簡単にですが、纏めます。
営業として提示する仮説が否定されてしまわないか・・・という不安を乗越えましょう。
1)仮に間違っていたとしても、それを正すことを顧客は嫌がりません
2)第三者の話として提示し、感想・反応を伺ってみましょう
3)アドバイスを下さい、と打診して相手の知見も活用させてもらいましょう
営業の提案は、自分の賢さを誇示することが目的ではありません。
目指すべきは、
「営業の提案が良かったな」と思って頂く以上に
「(顧客が)いい買い物(意思決定)をしたな」と思って頂くことです。
最後に参考にして頂きたいのが、
イギリス元首相ウィンストン・チャーチルの母である、
ジェニー・ジェローム(ランドルフ・チャーチル夫人)のエピソードです。
ウィリアム・グラッドストンとベンジャミン・ディズレーリという、
イギリスの政治家で最大のライバル同士である2人それぞれと、食事をしたそうです。
その時感じたことを、彼女は回顧録の中でこう語っています。
グラッドストンの隣に座った後にダイニング・ルームを出るとき、
彼をイングランドでもっとも賢い男性だと思いました。
でも、ディズレーリの隣に座った後は、
私がイングランドでもっとも賢い女性だと感じました。
営業として目指すべきは、後者なのです。
顧客が「いい買い物(意思決定)をした自分は賢い」
と感じて頂けるように、支援しましょう。
追記)
昔アメリカのドラマ『Xファイル』を観ていたせいか、FBIに権威を感じてしまいます。
関係者に会ったことはありませんし、
これからもFBIと関りの無い生活を送っていくはずなのですが・・・
前述のチャーチル母のエピソードは、下記にも記載しています。
関連して、是非ご参考下さい。