グッド・ファイト・クラブの挑戦者であること
『ファイト・クラブ』という映画をご存じでしょうか。
ブラッド・ピット主演の1999年制作のアメリカ映画です。
この映画の中に、ストレスを抱える大人達が、
バーの地下室で1対1のファイト(殴り合い)を行う
“ファイト・クラブ”と名付けられた秘密の集まりが出てきます。
実際に殴り合ってしまう必要は無いのですが、
“議論”という思考のファイトは、組織ないし個人の成長には必要不可欠のようです。
Amazonの創業者である、ジェフ・ベゾスの言葉です
多くの正しい判断ができる人は、よく耳を傾け、よく自分の考えを変える人だ
考える力(思考力)の必要性は言うまでもありませんが、
“考え”は、時に考え直し、軌道修正ができる柔軟性が求められます。
何故なら僕達の“考え”は、
自分が予期するものをみる「確証バイアス」と、
自分が見たいものをみる「望ましさバイアス」に大きく影響されているからです。
騙し絵のようなことが、日々の思考でも発生している、というイメージでしょうか。
正しい意思決定は、これを乗越えなくてはなりません。
アダム・グランド著『THINK AGAIN』では、その為にも
挑戦的なネットワーク=グッド・ファイト・クラブを創るべきだと進言しています。
以下、同書より抜粋、加筆修正
協調的な人達は、周囲の人を励まし、熱心に応援し、
大きな“応援ネットワーク”を生み出すことができる。
しかし、私達に再考を促してくれるのは、別の種類のネットワークだ。
私はこれを“挑戦的なネットワーク”と呼ぶ。
このネットワークは、私達の盲点を指摘してくれ、
弱みを克服する手助けをしてくれる、信頼のおける人達の集団なのだ。
彼らは、私達の再考サイクルを作動させ、自身の技術を過信しないよう、
自身の知識を疑うよう、そして新しい見解に興味を持つように仕向けてくれる。
挑戦的なネットワークの理想的なメンバーは、非協調的な人だ。
というのも、非協調的な人こそ、思い込みを手放し、発想を変える為に、
これまでのやり方や不文律に対して臆することなく疑問を投げかけるからだ。
私の“挑戦的なネットワーク”は、欠点探知機だ。
だが、“グッド・ファイト・クラブ”ともいえるだろう、
このクラブの第一のルールは、「議論を避けるのは不作法である」だ。
何も言及しないとは、相手の「見解の価値・有用性」と、
自分自身の「意見の相違を礼儀正しく伝える能力」とを軽んじているということだ。
自身の思考、考えをアップデートし、より良い意思決定を行う為には、
非協調的な人達の協力が必要ということです。
皆さんには、そのようなネットワークがおありでしょうか。
ここで少し考えたいのが、顧客と営業の関係性についてです。
営業は顧客にとっての、非協調的な協力者であるべきです。
お互いの関係性のみを考えれば、
営業は顧客の考えに、常に賛同し、協調し、応援する方が良いです。
お互いその方が気分もいいでしょう。
しかし、顧客の目的は、基本的にはビジネス的な成果(利益)を出すことです。
その目的の達成に貢献しようとするのであれば、応援するだけでは足りません。
顧客にとっての挑戦的なネットワークの一端を担いましょう。
マシュー・ディクソン/ブレント・アダムソン著 『チャレンジャー・セールス・モデル』によると、
セールスパーソンは、下記の5つのタイプに分類できるそうです。
●ハードワーカー(勤勉タイプ)
●チャレンジャー(論客タイプ)
●リレーションシップ・ビルダー(関係構築タイプ)
●ローンウルフ(一匹狼タイプ)
●リアクティブ・プロブレムソルバー(受動的な問題解決タイプ)
同書籍では、この中で最も成果を出すのは、
「リレーションシップ・ビルダー(関係構築タイプ)」ではないか?と予想されます。
言わば、先の応援ネットワークに営業が加わるようなイメージです。
しかし、実際に最も成果を出せたのは、
扱いにくく、顧客にも上司にも言いたいことを言う
「チャレンジャー(論客タイプ)」であった、とされています。
そして、その傾向は複雑な営業(=高額・専門的)でより顕著でした。
チャレンジャーの特徴は、インサイト(知見)の提供です。
つまり、顧客が気づいていない問題について教え、関心を引きつけ、
顧客の方針(現在の視点やアプローチ)を転換させることができるから成果を出せるのです。
正に挑戦的なネットワークの一旦として、
顧客とグッド・ファイト・クラブに興じられているということです。
同書には、下記のような一節が出てきます。
彼らは、顧客の世界を本人と同じくらい理解しているから頼られるのではない
顧客の世界を本人以上に理解し、その内容を本人に教えられるから頼られるのだ
顧客のことを顧客以上に理解する?
いくら何でもハードルが高すぎやしませんか、という感じです。
が、限られた範囲ではどうでしょうか。
皆さんの取り扱っている、商品・製品・サービスの分野において、です。
皆さんの事業領域においては、営業の方が、プロなわけです。
顧客を応援する(ご要望にそのまま応える)だけでは足りません。
議論を恐れず、知見の提供というチャレンジが求められています。
顧客と議論しましょう。
グッド・ファイト・クラブで。挑戦者として。
『はじめの一歩』20巻 Round 174「疼きだした刻印」より
追記)
映画のファイト・クラブの第一のルールは、
「ファイト・クラブのことを口外しない」でしたが、
グッド・ファイト・クラブの第一のルールは、
「議論を避けるのは不作法である」です。
遠慮は不要です。
ただし、配慮は必要です。
顧客と本当にファイト(喧嘩)になっても僕のせいにはしないで下さい。
チャレンジャー・セールス・モデルの話と関連した、
営業として必要になるマインドセットについては下記を参考にして下さい。