受失注データの活用-失敗は成長型マインドで捉える-
営業情報・データを活用する上で、絶対に外すべきではない対象があります。
失注データです。
自社の失注件数を調べてみて下さい。
SFA/CRMの様なシステムが無いと難しいかもしれませんが、
SFA/CRMを運用している場合も実はそれほど蓄積されないデータです。
多くの場合の感想は、
「こんなもんじゃないだろう・・・」です。
受注件数は誤魔化せませんので、基本的には正しい数値です。
反して失注件数は、多くの場合事実に即しません。
最終的な処理(ジャッジ)が成されず、
受注も失注もしていない状態の案件として放置されがちです。
しかし、ここがデータ活用のカギなのです。
意識しなければ蓄積されない失注データと、
意識せずとも蓄積だけはされる受注データ、
それぞれのマネジメントのポイントについて纏めています。
▼Index
1)失注データが重要な3つの理由
2)受注・失注データ活用のマトリクス
-①リベンジ(失注×商談機会増)‐失注は受注へのプロセスに過ぎない‐
-②再発回避(失注×受注率向上)‐同じ轍は組織的に踏まない‐
-③コツ化(受注×受注率向上)‐成功要因の言語化‐
-④横展開(受注×商談機会増)‐隣の芝を見せる‐
3)成長型マインドセット
最後に
1)失注データが重要な3つの理由
失注データについて、ある程度の工数をかけてでもマネジメントすべき理由です。
①データ件数が多い
受注率が50%を越えない限り、失注件数の方が多くなるはずです。
データの分析や、蓄積データを何かしらの意思決定や改善に利用しようとする場合、
ある程度の情報量が必要です。
対象データとして多いに越したことは無いのです。
そう考えると、残念ながら受注より多く発生する失注は有益な情報源であるはずです。
②発生のタイミング
当たり前ですが、失注は受注よりも手前のプロセス(工程)で発生します。
受注してから失注することは無いからです。
買わない(=プロセスが進まない)理由をクリアし、
その後プロセスに進みやすくすることは、改善インパクトとして大きいのです。
③再現性が高い
営業とは、相手(顧客)があっての活動です。
そして、営業個人としてのパーソナリティも多分に影響します。
それ故に、売れた理由から成功ノウハウを体系化するよりも、
まずは買わない理由を潰し、
失注回避のノウハウを体系化する方が再現性が高いと言われています。
恋愛に例えると、
惚れてくれる(惚れる)ポイントは人それぞれだが、
嫌われる(嫌う)ポイントは大抵同じ、という感じでしょうか。
魅力を伝える為にも、嫌われていないことが前提、ということです。
2)受注・失注データ活用のマトリクス
縦軸に案件のステイタス(失注or受注)、
横軸にデータ活用による期待効果(受注率向上×商談機会増)をとります。
▼受失注データ活用のマトリクス
それぞれの象限について、ご説明します。
①リベンジ(失注×商談機会増)‐失注は受注へのプロセスに過ぎない‐
受注に至らなかった商談は、どこかでリベンジ(再提案)する対象です。
仮に他決(他社から導入)した場合も、
数年でリプレイスや再購入の可能性がある商材やサービスであれば、
中長期的に見てリベンジ(再提案)の対象です。
今回の失注は(失敗)は、次の受注(成功)へのプロセスに過ぎないのです。
失注した際に、再提案の可能性、時期(タイミング)、
再提案時に商談を有利に進められる為の情報をしっかりとマネジメントしましょう。
失注した顧客は、受注する可能性のあった顧客です。
ニーズは確かにあったのです。
失注データから、再提案リストへのフローをつくれば、商談機会は必ず増加できます。
②再発回避(失注×受注率向上)‐同じ轍は組織的に踏まない‐
失注データが重要な理由でも挙げた通り、買わない理由を潰したいのです。
つまり、失注理由を分析・マネジメントしましょう。
この際、少し注意が必要です。
基本的に失注理由は、営業本人の評価(自己申告)です。
当然ながら、多少のバイアスがかかると思って下さい。
更にややこしいのが、顧客に失注理由をヒアリングしたとしても、
それが本当の理由とも限らないのです。
仮に提案内容がイマイチだったとしても、
「お前(営業)がダメだった」と面と向かって言ってくれる顧客は少ないのです。
当たり障りのなさそうな「金額」や「付き合い」、「鶴の一声」が関の山です。
少し、ツッコまないといけません。
・他社のどの点が、どのように良かったのか?
・仮に自社で改善すべきとしたらどこか、助言してほしい
・最終的な判断は、どのタイミングでされたか(※これ、大事です)
勇気をもって聞いてみましょう。
失注理由のマネジメントは、バイアスを考慮して組織的に行うことが重要です。
取得できた情報(理由)と、個別の事象を鑑みて、買わない理由を特定して下さい。
そこが組織的に改善できれば、受注率は必ず向上します。
③コツ化(受注×受注率向上)‐成功要因の言語化‐
失注理由の分析の方が再現性が高いといいつつも、受注理由の分析も有効です。
成功要因には、当然ながらノウハウが隠れており、その共有は組織に必要です。
そして、僕の経験上からも、自身の成功要因を分析することは、
営業パーソン自身にとってプラスの影響が非常に大きい点でも推奨できます。
営業パーソンには、ある程度の自信が必要です。
自信の多くは実績と経験によって培われていくモノです。
そして、その自信とスキルを効果的に積上げていく上でのポイントが、
「成功要因(上手くいった理由)を人に説明できるかどうか」です。
人に説明できるということは、言語化が成されているということです。
何となくの肌感覚・カンといった暗黙知を、
言語化を通して形式知化するというプロセスを踏みましょう。
このプロセスが、再現性を持ったスキルの習得と自信に繋がるのです。
受注理由として、成功要因を言語化して下さい。
コツを掴めた営業パーソンの受注率は、必ず向上します。
④横展開(受注×商談機会増)‐隣の芝を見せる‐
受注データのカテゴライズをしてみましょう。
業種・業態、規模や資金力といった属性情報から、
接触のきっかけ、ニーズ、提案内容等の営業情報がひとつの切り口です。
そして、それらの情報を事例化し、同じカテゴリの見込顧客に横展開します。
隣の芝は、いつだって青いのです。
営業において、事例の提示が有効な理由のひとつは、インサイトの提供です。
顧客に何かしらの提案をする際、
顧客の考え(現状)を否定しなければならないシーンがあります。
「いや、もっとこうした方がいいですよ・・・」という提案のイメージです。
その際「(同じ課題の)他社ではこうやっています」という事例の提示は、
顧客の考え(現状)を否定することなく、気づきを与える有効な方法なのです。
特に関係性が構築しきっていない、初期段階の商談で力を発揮します。
受注データは事例化し、横展開していきましょう。
気づきを与えるコンテンツは、商談機会を必ず増加させてくれます。
3)成長型マインドセット
最後に、失注・受注のデータを活用していく上でのマインドセットについてです。
書籍『失敗の科学』マシュー・サイド著にて紹介されている、
成長型マインドセットという概念について下記に対比を纏めています。
当然ながら成長型マインドセットが好ましいということなのですが、
自分(達)は成長できるというマインドセットでいるからこそ、
失敗の受け止め方も変わる、ということです。
そして、同著には下記の様な興味深い一説もあります(書籍より抜粋一部加筆修正)
成長型マインドセットについては、大きな誤解がつきまとう。
成長型マインドセットの人は、無理なタスクにも粘り強くがんばり続けてしまうのではないか?
達成できないことに取り組み続けて、人生を無駄にするのではないか?
しかし、実際はその逆だ。
成長型マインドセットの人ほど、あきらめる判断を合理的に下す。
成長型マインドセットの人にとって、
「自分はこの問題の解決に必要なスキルが足りない」という判断を拒むものは何もない。
彼らは自分の“欠陥”を晒すことを恐れたり恥じたりすることなく、
自由にあきらめることができる。
彼らにとって、引き際を見極めて他のことに挑戦するのも、やり抜くのも、どちらも成長なのだ。
失敗を機会の発見と捉えているからこそ、引くときは引き、次の機会に挑戦できるのです。
また、営業における“失注”を失敗として捉える必要すらないのかもしれません。
書籍『裏道を行け』橘玲 著 には、下記の様な一説があります(書籍より抜粋、一部加筆修正)
ゲームは、「楽しい失敗」をするように設計されている。
子供達がゲームが大好きなのは、失敗するからだ。
一度も失敗せずにクリアできるゲームほどつまらないものはない。
優れたゲームは、失敗するほど「もっとうまくなりたい」という気持ちになるような、
フィードバックを送ってくれる。
だからこそもっと没頭したくなり、もっと楽観的になって成功への期待が高まっていく。
ゲームは失敗への恐れを取り除いて、成功のチャンスを高めてくれる。
営業における失注は、決してゲームオーバーではありません。
・1機消費した(今頃は恐らく1機とかいいませんよね・・)
・ゲームをクリアする為に必要なアイテムを手に入れた
・経験値を取得して1レベル上がった
くらいで考えると良さそうです。
成長型マインドセットを持って、失注(失敗)の定義を換えてしまいましょう。
最後に
勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし
大名ながら心形刀流剣術の達人であった、松浦静山の言葉らしいです。
野球の野村克也氏が好んで使ったことで、よく知られる様になりました。
不思議のない負け(失注)については、
しっかりとその原因を突き止め対策を立案し、
不思議のある勝ち(受注)についても、
言語化し組織的に共有することで営業力強化に活かしていきましょう。
追記)
関連して、組織のナレッジとしていく上でも参考にして頂きたい過去の記事を纏めています。
▼成功要因を言語化し、コツ化するという件について(画像クリック)
▼学習する組織となる為には、コレクティブラーニングが必要です(画像クリック)
▼組織としての情報共有・活用には、トランザクティブ・メモリーを利用して下さい(画像クリック)