急成長のためのABC理論
若くして名将の呼び声も高い、仙台育英学園高等学校硬式野球部の
須江 航(すえ・わたる)監督(2025年8月現在)。

甲子園でのある試合後のインタビューで、選手の劇的な成長を下記のように喩えたそうです。
甲子園というのは本当に倍速で、本当に1日で1年分くらいの経験を積める。
ドラゴンボールだと”精神と時の部屋”みたいなこところ。
(精神と時の部屋のように)1日で1年分の修行ができる。
まさにそういうところなので、そういうスピード感で成長しているなと思います。
同世代の僕としては、この喩えもバッチリでw
”精神と時の部屋”とは、漫画『ドラゴンボール』に出てくるある設定です。

出典:漫画『ドラゴンボール』其之三百六十六 サイヤ人たちの修行 より
その部屋は、重力が地球の10倍もある過酷な環境で、
その部屋で1年過ごしても、周りの時間は1日経過するだけ(時間経過が約365倍)。
なので、主人公の孫悟空はじめ何名かは、
そこで厳しい修行をして劇的な成長を遂げる、というシーンがあります。
甲子園も選手にとって、それくらい成長機会となる場所である、と。
なるほどです。
特殊な環境下での経験(体験)が成長を加速させる、という説を少し深掘りしてみました。
ポイントは、
覚醒(Arousal)、結合(Binding)、整理(Consolidation)、です。
これを、それぞれの頭文字をとって”急成長のためのABC理論”としてご説明します。
▼覚醒(Arousal)
人は、適度な緊張・興奮状態でこそ、パフォーマンスが最大化されると言われています。
多くの球児にとって、甲子園が正にそうなりやすい舞台であることは容易に想像できます。
つまり、緊張や興奮で集中力が極限まで高まった、覚醒状態になることが重要です。
では、覚醒状態とはどのような状態なのか?
2016年、心理学者 Mara Mather らが提唱したGANE仮説という理論があります。
これは、ざっくりいうと
覚醒時のノルアドレナリンの働きは、グルタミン酸と相互作用して重要な情報だけを増幅する
という趣旨になります。
人が覚醒状態にある時、全ての能力が底上げされているわけではなく、
重要情報を強調し、不要情報を切り捨てる“コントラスト”が強化されているそうです。
つまりリソースそのものが増えている(その時点で能力が上がっている)のではなく、
リソースを効率的に「本当に必要な情報」へ集中させられている状態、ということです。
緊張・興奮するような場、状況、シチュエーションを創り、臨みましょう。
そして、その緊張・興奮を受け入れましょう。
▼結合(Binding)
甲子園という特殊な環境下で、なぜ劇的な成長を遂げられるのか?
当たり前かもしれませんが、
どうやらそれは、普段からちゃんと練習しているから、のようです。
では、なぜ普段の練習時にすぐ成長できないのでしょうか。
1997年、Frey & Morris によるラット海馬の研究から提唱したSTC理論があります。
これは、記憶の形成メカニズムを「弱い学習と強い学習の組み合わせ」で説明するものです。
日々の練習や経験により、シナプスにはタグ(印)が立つそうです。
ただそれだけでは、安定した記憶(力)にはなりにくい。
それが強い体験(例:試合での成功)によって結びつき、
一気に強化、定着されるそうです。
つまり、前提としてシナプスに多くのタグ(印)を立てておかなければなりません。
これが普段の練習であり、コツコツの努力です。
ただ、それだけではなかなか定着しないが、
強烈な外部刺激(体験)によって結びつく。
この結合がカギです。
ただ、結合されるためには、強烈な体験をするだけではダメ。
そもそも日々の努力、練習が、文字通り結実させるための前提条件なようです。
また、日々の努力、練習だけでも残念ながらダメ(=急成長はしない)。
結合するための、強烈な体験が欠かせないのです。
▼整理(Consolidation)
そして忘れてはならないのが、この経験・体験をしっかりと整理し、定着化させること。
ここで皆さんに朗報です。
この整理に必要なのは、休憩・睡眠です!
コンソリデーション理論では「記憶は時間と脳内処理によって固定化される」と考えます。
休憩や睡眠は、記憶の整理・強化に必須の時間 です。
海馬ニューロンは、
休息や睡眠中に直前の経験を「早送りで再現」する現象が観測されているそうです。
そう考えると、
「やった!理想のプレーができた!忘れないうちに反復を・・・・」
ではなく、
「やった!理想のプレーができた!忘れないうちにおやすみなさい」
なのですw
これは極論ですが、
覚醒→結合の後は、しっかりと休むことも重要なプロセスなのです。
それが整理を進め、記憶(能力)の定着化・固定化を進めてくれるようです。
以上が、急成長のためのABC理論です。
日々の仕事で、球児の甲子園級の舞台に上がることは難しいかもしれませんが、
緊張・興奮する機会を自ら創り、選択しましょう。
その環境・状況が、あなたを覚醒させます。
その覚醒下での体験が、
これまでの経験を結合させ、次のステージに連れて行ってくれます。
ただ、結合されるべきタグを日々積み重ねておくことも忘れずに。
そして、しっかりと休むことで、長期記憶(能力)に固定化されます。
火事場のクソ力を常時出せるようにするには、この休息も大きなカギなのです。
急成長のためのABC理論、組織に展開してみてください。
追記)
皆さんも、これまで何かしらのきっかけで、
劇的な成長を遂げた経験がおありじゃないでしょうか?
このABCに沿っていそうですか?
それを振り返って言語化してみるのもいいかもしれません。
下記もご参考ください(タイトルか画像をクリック)
